白紙でなければ絵は描けない⁇-パフォーマンスの真髄 ~佐藤 英行report~

4人のプラクティショナーが 、月ごとに自分の感じていることやお知らせしたい情報などフェルデンクライスに関することを皆様にお届けしています。

第63号-2021年11月は佐藤 英行からお届けいたします。

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武術の世界には「白紙でなければ絵は描けぬ」と言う言葉がある。「武術を習うのなら、頭の中を空にして師匠に言われた通りの修行をやれ!」という格言だ。

武術に限らず、パフォーマンスを学ぶときは、最初は真似=模倣から入る。少しずつ自分というキャンバスに「パフォーマンスの絵」を描いて行くのだ。最初の頃は指導者の動きを模倣しているだけでも楽しい。しかしある程度上達すると、壁にぶち当たることがある。

我々はパフォーマンスを習う前に、既に基本的な動きを身に付けている。子供の頃から学び始めたとしても「身に付けている動き」をベースにして動き方を学ぶ。スタートの段階で、我々のキャンバスは「白紙」ではないのだ。
また、ある程度の年齢になってから学び始めた場合、おおまかな動きは出来たとしても、細かい事には「過去に学んだ動き」が出て来てしまう。これは英語を学び始めたばかりの時に、どうしても発音が「日本語訛り」になってしまう事と似ている。そのまま努力だけを重ねると、一生懸命練習をしているにもかかわらず「お前の動きには変な癖がついている」と言われてしまう。
そして、「変な癖」を取り除くことが出来たとしても、指導者と同じ身体を持っているわけではない。手足の長さも違えば筋肉の量も違う。「身体」という条件が違うのだから、同じパフォーマンスを行うためには、違うアプローチが必要なのだ。

…では、どうすれば良いのか…⁇

ひとつの方法は「自分だけの動き」を見つける事である。身体の隅々にまで意識を向けて、自分の動きに注意を払いながら、ゆっくりと練習を重ねる。そうする事で言葉では表現できない「何か」を見つけ出すことが出来る。「動き」と「自分」を統合する方法を発見出来るのだ。そしてその発見のためのヒントは「自分のキャンバスに既に描かれている絵」の中に存在する。

Dr.モーシェ フェルデンクライスは、自身の著書「EMBODIED WISDOM」の中で「音楽家でもある数学者は、他の音楽家とは似ていない。同様に詩人でもある音楽家は、他の詩人とは似ていない。付け加えられた特質は全体を変える。」と述べている。これはある意味で「機能が統合された形」を表している。だから「今まで描かれた絵」を無理に「自分のキャンバス」から消すのではなく、むしろ自分の動きに統合し、自分の特性として利用するべきなのだ。

パフォーマンスは自己表現だ。いろいろなことが描かれている「自分のキャンバス」を最大限に発揮する。それこそが自分だけに出来るパフォーマンスだ。それが出来た時、パフォーマンスは唯一無二の「本物」になる。

 プラクティショナー  佐藤英行

2021-11-25 | Posted in FK Tokyo 通信, ReportComments Closed 

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