最初のボタン ~佐藤 英行report~

プラクティショナーが 、自分の感じていることやお知らせしたい情報などフェルデンクライスに関することを皆様にお届けしています。第93号ー2025年4月は佐藤 英行がお届けします。

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我々は成長と発達の過程で多様な学習を重ね、自己を形成していく。しかし、初期の発達段階で重要な学びを逸した場合、その影響は長く見過ごされ、やがて成人後に様々な困難として顕在化することがある。いわゆる「最初のボタンのかけ違い」である。

子どもは自身の成育環境を選ぶことができない。仮に発達上の重要な要素が欠落していても、行動に大きな問題がなく、学業成績が平均的であれば、周囲からは「問題のない子」と見なされる。この段階で逸脱が見過ごされ、根本的な発達課題が放置されることは少なくない。

人の成長には順序と構造がある。たとえば歩行は、立ち上がるという過程を経て初めて可能になる。こうした発達の秩序は無視できるものではなく、飛び越えることもできない。しかし、実際の生活環境は常に秩序立っているわけではなく、学習機会や発達の質には大きな個人差が存在する。

一定の成長が見られれば、社会は「正常」と判断し、それ以上の評価を行わない傾向がある。これが、未解決の発達課題を抱えたまま成人を迎える一因となる。成長発達の遅れや誤学習は、単なる身体機能だけでなく、対人関係能力や感情調整、社会適応など広範な領域に影響を及ぼす。

取りこぼされた学びや未解決の経験は、時間とともに内面に蓄積され、大人になってから壁として現れる。最初のボタンがずれていれば、最後のボタンも合わない。したがって、どの段階で発達や学習が停滞または逸脱したのかを見極め、その時点まで立ち返って再学習を行う必要がある。

しかしながら、現代社会は成人に対して「自己責任」を強く要求する。「大人なのだから自分で解決せよ」という論理のもと、当事者の困難は軽視されがちである。そのため、苦痛の正体がわからぬまま耐え忍ぶ者も少なくない。

このような状況において必要なのは、外部の期待や評価に依存する「他人軸」ではなく、自らの感覚や思考に基づく「自分軸」での生き方である。自己の内面に注意を向け、「自分は何を感じ、何を望んでいるのか」を理解し、それを認めること。そして、自らの人生を主体的に選び取っていくことが、真の成長と回復への道である。

こうしたプロセスは一見遠回りに思えるかもしれないが、実際には最も本質的で確実な近道なのである。

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フェルデンクライス プラクティショナー 佐藤英行

2025-04-30 | Posted in FK Tokyo 通信, ReportComments Closed 

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