柔らかい脳 ~佐藤 英行report~

4人のプラクティショナーが 、月ごとに自分の感じていることやお知らせしたい情報などフェルデンクライスに関することを皆様にお届けしています。

7月のreportはツダ ユキコからお届けする予定でしたが、もう少し時間が必要な状態です。出来次第掲載いたしますので、もうしばらくお待ちください。

第60号-2021年8月は佐藤 英行からお届けいたします。2021年9月はサノ ケイコです。

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「脳には可塑性がある」とフェルデンクライス メソッドでは言われている。可塑性、つまり「外部からの入力に対応して変形適応する」ということだ。その「脳の可塑性」についての興味深い研究結果が今年の5月に発表された。以下はその抜粋である。

『科学専門雑誌「Science Robotics」によると、イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)認知神経科学分野のDanielle Clode氏らの研究により、手の小指の外側に「第3の親指」と名付けられた人工的な指を装着すると、脳も「第3の親指」を体の一部として認識することが明らかになった。

「第3の親指」は、手の小指の近くに、手首と手のひらにストラップを巻いて固定。両足の親指の裏にストラップで固定されたセンサーを操作することで動かすことができる。研究チームは20人の被験者に「第3の親指」を装着させ、自由に使いこなせるように5日間にわたって訓練を実施。被験者は毎日、1日当たり平均で2~6時間ほど「第3の親指」を着用。5日間の実験期間中に被験者は、目隠しをした状態や数学の問題を解く片手間といった状況でも「第3の親指」を使うことができたとのこと。

また研究チームは実験の前後に「第3の親指」を装着していない状態で指を動かしている間の被験者の脳を、機能的MRI(fMRI)でスキャンした。その結果、感覚運動皮質と呼ばれる運動に関連する脳領域で、元からある手の動きの“表現”が変わっていたことが明らかになった。丁寧に脳の中を調べてみた結果“第3の親指”の脳領域が新しく生まれてきたということだ。人間が生得的に持っているような親指や人差し指を動かす能力と、人工的に取り付けた親指(第3の親指)が並ぶような形になった。

ただし、7~10日後に一部の被験者で再検査を行ったところ、この変化はもはや認められなかったという。Clode氏らは、「このことは、第3の親指の装着により生じた脳の変化が長期間は維持されない可能性を示唆している。さらなる研究でこのことを確かめる必要がある」としている。』※以上、研究結果の抜粋

脳とロボットアームの連動についてはBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)が知られている。これは身体を動かすときの脳波を測定し、それと連動したロボットアームを使うことで、身体機能の回復、補完を目指すものだ。脳波測定時に麻痺した筋肉に電気刺激を与え、同時に麻痺した四肢を他動的に動かすことでリハビリテーションにも応用されている。

しかし「第3の親指」はBMIとは異なり、フットスイッチで作動する「道具」である。

BMIは「既存の脳の回路」を使用してロボットアームを動かす。

それに対して「第3の親指」では「道具を使うこと」で脳に「新しい回路」が形成された。

この類の「脳内の変化」は、程度の差こそあれ、我々の脳にも日々起きている可能性がある。

「第3の親指」による脳内の変化は、現在のところ良い変化なのか否か?はわからない。しかしBMI研究の第一人者で慶応大学理工学部の牛場潤一准教授は、この実験結果について

「たとえ人工的な物質でも体の一部であると認識する“脳の柔軟さ”を示す実験結果である。例えば音楽をうまくひきたいとか、スポーツをうまくやりたいとか思ったら、一生懸命苦労して何万時間やらないと上達しない。それは、僕らが脳の回路を柔軟に組み替える方法を分かっていないから、過程を『苦しまなければいけない状態』だと思ってしまう。だが、僕らが思っている以上に脳の回路は柔軟に変わる。その変わる“条件”が今回の研究を通じて分かった。今後より楽しく、簡単に新しい身体の使い方を変える方法が分かってくるだろう。」

と述べている

牛場准教授の言葉はDr.モーシェ フェルデンクライスの考え方にも通じるものがある。脳の回路を変えて学習を容易にすることは、これはまさにフェルデンクライスメソッドが目指すもののひとつだ。学習についてDr.モーシェ フェルデンクライス は、レッスン集の中で以下のように述べている。

『難しいと感じながら、筋肉を伸ばす動きを行なうことは、学習を強要することになる。そんなやり方だと、誰も何も学ぶことはできない。学ぶことにおいて、強要されたり、力ずくで行なわれたり、痛みを伴ったり、達成するために過剰な努力を強要されたりしたものは、すべて忘れてしまうべきだ。そうやって学んだものは、けして楽しみや満足を与えてはくれないし、何も役に立たない。』ーアレキサンダーヤナーイレッスン集#20よりー

我々は、脳の可塑性を使って、さまざまなことを快適に学ぶことができる。BMIや「第3の親指」がなくても、フェルデンクライスのレッスンで脳の回路を変えることができるのだ。

学習が「苦しまなければいけないもの」の時代は、もうすぐ終焉を迎えるだろう。

フェルデンクライス プラクティショナー 佐藤英行

※参考資料

https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/news/overseas/00102/

https://news.yahoo.co.jp/articles/60711677a515129d428005d8b2919b1f0fcc80fe

https://nazology.net/archives/89396

https://www.amed.go.jp/pr/2016_seikasyu_01-06.html http://www.nips.ac.jp/srpbs/media/8/agolaposter_ab.pdf

https://www.toshin.com/sekai/interview/15/

2021-08-27 | Posted in FK Tokyo 通信, ReportComments Closed 

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