巨星が教えてくれたこと~佐藤 英行からreport~

4人のプラクティショナーが 、月ごとに自分の感じていることやお知らせしたい情報などフェルデンクライスに関することを皆様にお届けしています。

第39号-2019年9月は、佐藤 英行からお届けいたします。2019年10月はサノ ケイコです。お楽しみに。

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巨星が教えてくれたこと。

今年の夏、ひとりの巨星が逝った。
Harold Dull (ハロルドダール)。享年84歳。

「世界でもっとも進歩的な水中ボディワーク」と言われるWatsuの創始者である。

私がハロルド師に初めて会ったのは、今から19年前。ハワイのマウイ島で開催されたWatsu の第2段階のコースを受講した時のことだ。テクニカル的なことも、もちろん多く教わったが、私が一番記憶に残っているのは、講義の時間に聞いた「クライアントとの向き合い方」だ。

曰く…。

『Watsuをすることで、相手とのあいだに呼吸、brain、heartのシンクロが起こる。

brainは感情を押さえつけてコントロールし抑制しようとする。

heartはどんな感情でも受け入れようとする。

だからWatsuをする時には自分を「無にする」ことが必要だ。

もし「相手を治そう」と思うと、その感情を自分のheartが受け入れて、

相手のheartにシンクロしてしまう。そしてそれを受け取った相手の感情が、

また自分のもとへと帰ってくる。

もしあなたが「頭を使って考えるタイプ」ならば、相手のbrain もそのように反応する。

そして、それを受け取った相手の「考え」も、また自分のもとへ帰ってくる。

これではセッションが滞ってしまう。

自分の中を「無」にして「排水管のパイプ」のように自分が吸収してしまったものをすべて排泄することが出来れば、相手に余計なものを与えなくて済むし、相手から余計な物をもらうこともない。』

正直なところ、最初は「???」と思った。

「無⁇ パイプ⁇ 何それ?? それに俺は理学療法士だ。治そうと思うのは当然だ!」と考えていた。

しかし、なぜか「〇〇してやろう!」と意気込んで行ったセッションほど、

大して良い結果を出せずに終わることが多かった。

そして、私がハロルド師の言葉の意味が理解できるようになるまで、長い時間が必要だった。。。

2007年からフェルデンクライスのトレーニングに参加したのだが、驚くべきことにトレーナーの先生方は、ハロルド師と同じニュアンスの事柄を、言葉を変えて私に教えてくれた。

曰く。。。

『他の人が自分に注意を向けている時に、私たちは「自分は注意を向けられている」というこを知ることが出来る。それは私たちが発達の過程で得たものだ。私たちは注意を向けてもらうことによって満たされ、相手と共鳴することが出来る。』

『「治そう」としてFIをやると「治す」ということを相手に強制してしまう。

「相手をある形にする」というレッスンをすると、相手は混乱してしまう。

そうではなく相手と共鳴して相互関係を築き、相手と一緒に学ぶ形をとるべきだ。』

『ジャッジメントをしてはいけない。それをやると「〇〇しなければならない」と考えてしまう。

ジャッジメントが入らない状態で見ると、いろいろなものが見えてくる。

ジャッジメントは我々の「見る力」を止めてしまう。』

「治すこと」は、要するに「相手を変えてしまうこと」だ。

これは相手が自分から他の方法を選択して「結果的に変わった」のとは大きく意味が違う。

そして「治す」には、早く結果を出すことが要求される。

「自分自身で何かを見つけ、自らが変化して行く」などという余裕はない。

そこには「患者と治療者」以外の相互関係は存在せず、

治療者は「無になる」のではなく、患者を正しくジャッジメントして評価、

治療をするという明確な意図を持って患者と接する。

このあたりのことが、理学療法のような医療系のセッションとフェルデンクライスメソッドとの「大きな違い」だ。

何も知らない人が見ると、FIレッスンも関節可動域訓練も「同じようなことをやっている」と思うのかもしれないが、医療系のセッションは詰まるところ「処置」の範囲を超えていない。「

学び」「成長」「相互理解」などの概念はないのだ。

プラクティショナーになったばかりの頃は、この「違い」に大きく戸惑っていた。

そして、この「違い」を理解し、満足なレッスンが出来るようになるまでに、私にはかなりの時間が必要だった。

しかし、フェルデンクライスのトレーニングを始める7年前に、すでに私は「そのこと」をハロルド師から直接教わっていたのだ。

恐らく私に一番欠けていたことだったのかもしれない。最近になって、ようやく理解することが出来た。

現在はあまりWatsuをすることもなくなったが、ハロルド師の教えは、今でも私の中に生き続けている。

これから、もしも道に迷いそうなことがあったら、もう一度ハロルド師の言葉を思い出そう。。。

Thanks a lot Mr. Dull…
I would like to offer my deepest sympathies….
合掌。

フェルデンクライス プラクティショナー  佐藤英行

2019-09-25 | Posted in FK Tokyo 通信, News, ReportComments Closed 

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